あなたの悩みを思い出に、弁護士の山田です。今日は2018年に改正されました相続法の改正のうち、遺産分割に関する見直しについてご説明したいと思います。

遺産分割に関する見直しについては大きく3つ。 配偶者保護のための方策。 遺産分割前の払戻し制度の創設。遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲。これについて新しく創設されたり改正されたりしています。
今日はこの内の2番目、遺産分割前の払戻し制度の創設についてご説明したいと思います。

見直しのポイント

相続された預貯金債権の払戻しを認めるための制度としまして、見直しのポイントとしては、相続された預貯金債権について、生活費や葬儀費用の支払い、あるいは相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう、遺産分割前にも払戻しが受けられる制度を創設しようということになりました。

改正前の預貯金債権の払戻し

改正前はどうだったのかっていうところなんですが、遺産分割が終了するまでの間は、相続人単独では預貯金債権の払戻しができないという風にされていました。実際は預金というのは分割債権だから当然に分割する。だから相続人がそれぞれ相続分に応じて請求することができるんだっていう考え方もあったんですが、平成28年の12月の最高裁判決判例で、相続された預貯金債権が遺産分割の対象財産に含まれることとなりまして、共同相続人による単独での払戻しができないという風にされたんですね。

だから銀行実務では相続人全員の印鑑を押して払戻しの請求をするとかいうようなこととか、あるいは遺産分割協議書っていうのを持ってきてください、だったら払戻しを受けますよというようにされていまして、相続人間で話がつかない間は、預金がロックされた凍結されたままで、払戻しができないというようなことが度々ありました。そうすると葬儀代も出せないじゃないかとか、年老いた相続人、配偶者とかが生活できないよといった困ったことがありました。

改正前、こういう風に預金を持ってたとして、死亡して被相続人になりました。長男・長女2人がいて、この2人だけが相続人だとしますと、この2人が合意して預金を戻せばいいんですけれども、すぐに合意ができないというような事情があった場合、長男が払戻しをすることができないということです。長男だけではですね。そうすると生活や葬儀費用の支払い、あるいは相続債務弁済などそういったものが、遺産分割が終了するまでお金を出せないというところで不便をきたす。そういうのをなんとかしましょうっていうので認められたのが、今回の改正での払戻し制度です。

改正された相続された預貯金債権の払戻しを認める制度

改正後はどうなったのかっていうと、遺産分割における公平性を図りつつ、相続人の資金需要に対応できるように2つの制度を設けることで、まず1つが預貯金債権の一定の割合、金額による上限があるんですけれども、これを家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口における支払を受けられるようにするというのが1つです。

もう1つが預貯金債権について家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件を緩和するというところで、改正前から家庭裁判所が払戻しを命じるっていうような制度はあったんですね。それの要件をもう少し緩和しましょうというのが今回の改正ですね。

それともう1つ新しく今度できたのは、家庭裁判所の判断を経ることなく、家庭裁判所に申立とかしないで、直接銀行に行って一定の金額は払戻しする、そういう制度も認められたというところです。

重要になってくるのはこの①ですので、これをちょっとご説明したいと思います

預貯金債権の一定割合については、家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口における支払を受けられるようにする

預貯金債権の一定割合については、家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口における支払を受けられるようにするというところで、909条の2が認められました。
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)という風にして、法務省令がいくらかというの(後で説明します)を限度とするんですけれども、そういうものについては単独でその権利を行使することができる。難しいことがいっぱい書いてありますけれど、結論から言って、この法務省令で定める額は150万円という風にされました。ということで結論から言うとこういう風になります。

300万円預金があって、この方が亡くなられました。先ほどの例で相続人が2人いる場合に払戻しの請求を長男がします。このような場合には 法定相続分は1/2と1/2ですよね。先ほどの条文でありました、相続開始の時の債権額の1/3、これがまず基準になりますので、300万円の預金の1/3で、それに自分の相続分の1/2をかけた金額、つまり50万円これを払戻しができますよという風になったんですね 。

ただしこれが150万円を超えるようであれば先ほど言った法務省令で定める150万円、これ以内にしなければいけないという風にされています。

例えば預金が1200万円だったとしましょう。このような場合に仮払い請求した場合には、1200万円の1/3、かけるの法定相続分の1/2で200万円になります。200万円はだめ、150万円までですよっていう風になったというところです。

「遺産に属する預貯金債権」に限られる

注意としては遺産に属する預貯金債権に限られます。だから遺言書があって、遺言書の中で誰が預金を取得するかが定められているような場合、帰属先が指定されている預金というのは、死亡と同時に受取人に移転しているので、すでに遺産ではなくなっている。だから当該預金については仮払いの請求はできない。

先ほどの例でいえば、遺言書でお父さんが長女にこの預金は全部相続させるとかいう風になってた場合には、いくら仮払い請求が認められたとしても、この場合にはもうこの1200万円の預金は、お父さんが亡くなった時点で長女に移っているんですね。だからこれについては長男は仮払い請求はできないということになります。

次に遺産に属する預貯金債権に限られます。だから 投資信託とか株式その他有価証券に関する権利、こういったものは仮払い対象にはなりません。気をつけてください。

預金口座単位、定期預金の場合は明細単位で仮払い請求できる

次に同じ銀行に複数の口座を持ってたり、複数の定期預金を有していた場合には、預金口座単位、定期預金の場合は明細単位で仮払い請求ができます。

だから、たとえばA銀行の普通預金に300万円、定期預金に600万円あったとすると、普通預金の300万円の1/3に対して、自分の法定相続分も仮払いで請求できますし、定期預金の600万円の1/3の200万円に、自分の法定相続分をかける分について仮払い請求ができるという風に単位ごとにできます。

ただし、先ほど言いましたように、債務者ごとに上限150万円っていうのがあるので、同じ銀行であったら、同じ銀行には合わせて150万円が上限だという制限があります。

遺産分割前に仮払い請求をした場合に受領した金銭は、遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす

遺産分割前に仮払い請求をした場合に受領した金銭、結局これはどういうふうになるのかって言うと、仮払いでもらえました。それはどうなるのかって言うと、遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなすっていうことになります。その後の残りの財産の遺産分割においては、すでに一部取得したことを前提に協議することになっています。

909条の2の効果で、先ほどの仮払い制度を利用した場合には、当該権利の行使をした預貯金債権については当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。先ほどの例で長男が仮払い請求で50万円を取得しましたっていうことになったら、いざ遺産分割の協議をする時には、もうすでに50万円もらってるからその分差し引くよという話になります。

預貯金債権に限り,家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件を緩和する。

あと相続される預貯金債権の払戻しを認める制度で、家庭裁判所が払ってもらっていいですよって認めるというような制度、これについてご説明します。
預貯金債権に限って、家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件を緩和しましょうということで、仮払いの必要性があると認められる場合には、他の共同相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断で仮払いが認められるようにする。
家事事件手続法の改正というものですが、これで 審判とか調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済とかそういったものが必要な時には、そういう申立てを経たものについてはこの仮払いっていうのを認めてもらうという制度があります。こういうふうに要件を一定程度緩和したっていうことになりますけど、この辺りはもうかなり実務的なことになりますので、詳しい弁護士のような専門家にご質問されることをお勧めします 。
以上、相続された預貯金債権の払戻しを認める制度、これについてご説明しました。